第31章 終戦
長い戦いが終わった。
そう締め括りたいところだが、一番の功労者であり唯一の女である華音がぶっ倒れたためそうもいかなかった。
光秀が信長への詳しい報告をまとめている間、華音は佐助と幸村監視のもと大人しく粥を食む。
元就と顕如は自分達の後始末を終えたらさっさと挨拶もなしに別れてしまった。
「元就どのと顕如どののことは見送りたかった」
「顔色悪い女に見送られても嫌だろ」
「だって私が2人をここに連れて来たのだもの」
「……あー、確かにそうだな」
元就も顕如もこの戦に乗り気だったのは、半分以上は華音のおかげのようなものだ。
責任感の強い華音は、このまま何も言わずに別れたのは後味が悪かった。
「それにしても華音さん、俺は本当に肝を冷やしたよ。攫われて毒を盛られて、それなのに立ってたんだから」
「義昭を殴り飛ばしたって聞いた時は空耳かと思ったぜ」
「私としては一番びっくりしたのは光秀どのが料理できるってことだったかな」
「こいつ危機を認識できてねーな」
さらに将軍に手を刺されたと言えば絶対怒られるだろうな、と思った華音は大人しく光秀手製の粥を完食した。
良い塩加減だった。
「俺達はもう少ししたらここを経つよ」
「……もしかして私が快復するまで待ってくれてた?」
「勘違いすんじゃねーバカ。バカ元が越後に帰るってやっと今日話ついたんだ」
「華音さん、幸村の“バカ”は好意の一種だ」
「私も義元どのも、幸村どののこと大好きですよ」
「バカなこと言ってんじゃねー!」
恥ずかしげもなく好意を言う華音は、本心のままに動くことができないことも多いこの世では珍しい人間だ。
「もしかしたら近いうちに、私の方からそっちに行くかもしれない」
「まさか信長の名代か?」
「いや医者として。もうすぐ越後は流行り風邪が出る時期でしょう」
「ああ」
病み上がりなのにすぐに医者として出るのは彼女らしいと言えばらしい。
「なぁ華音」
「はい」
「お前本当に誰でも治せるのか?」
「患者を診ないうちは何とも言えません」
「……肺の病は?」
その場が水を打ったように静かになった。