第30章 名も無き戦い
その名も無き戦は、一発の銃弾によって反撃の狼煙を上げた。
__パンッ
「!!」
「おい、今の音は……、
ひ……っ!!」
眉間を撃ち抜かれた同胞を見て、見張りの兵は目をむいた。
血しぶきを上げ、同胞が見張り台から真っ逆さまに転がり落ちる。
「て、敵襲!敵しゅ___」
___パンッ
すぐに、見張り台は無人になった。
悲鳴と鐘の音が響き出したのを確かめ、光秀は白煙を上げる銃を下ろした。
「恐ろしいヤツ……」
「それほどでも。ちなみに華音曰く、心の臓を撃ち抜かれても五十を数える間くらいは動いていられるらしいぞ。頭を狙うのが合理的だ」
「なんつーことこいつに教えてんだよ華音は」
「さあ、門を破れ」
「「「はっ!!」」」
今川家の家臣たちが丸太を抱え、城門を突破しなだれ込む。
敵陣への道が開いた。
「ご苦労さま」
「よし、ここからが本番だ」
「元就さんと顕如さん達は裏から、俺たちは正面から道を開きます。光秀さん、あなたは迷わず奥へ」
「心得た。では正々堂々、将軍にご拝謁願おうか」
「義昭様!光秀めが……!」
「うろたえるでない、愚か者が!敵は少数、返り討ちするまでよ」
「しかし予想以上の猛攻にて……今にこの本丸も攻め込まれます!」
「たわけが…!」
義昭の投げた盃が使者の顔に当たり、こぼれた酒が義昭の使者の上等な着物を無惨に濡らす。
「こちらには、とっておきの切り札があろう。……化け狐、そなたの地獄はここからだぞ」
光秀の無様な姿、そして彼らの絶望を妄想した義昭の口はにやりと歪んだ。