第30章 名も無き戦い
「色々策も悪巧みも考えたが…おのおの方に作戦は必要ないという結論に至った。各自好きなやり方で戦ってほしい」
「はっ、言われるまでもねぇ」
元就がやけに上機嫌なのには理由がある。
先の戦いで、対信長に使った武器や火薬はほとんど元就が提供したものだから、当然どれだけの量を渡したのかは把握していた。
そこで華音は元就から聞いた量と、本能寺で使われたであろう量を減算し、今将軍の手に残っている武器と火薬を推測した。
その結果、普通の戦ならば話にならないが、将軍を囲っての篭城であればそれなりに血が出るであろうほどの規模となった。
この戦いで光秀ら武将がやられるとはとても思えないが、それなりに派手な戦いとなるのだから、楽しみなのだ。
それに、華音の“嫌がらせ”が上手くいくかも見届けたかった。
「義昭様の狙いは俺だ。ゆえに俺は単独で義昭様の方へ行く。義元殿と佐助殿、幸村殿、顕如殿は華音の救出を最優先に」
「もちろんです光秀さん」
「……いいだろう」
「おい、何で俺は何もねぇんだ」
「おや、元就殿も華音を助けたいのか?」
「攫われて毒盛られて人質にされて、それでも生きてるってんなら面白いだろ」
死にかけている女を面白がるなと言いたいところだが、元就にそういう正論は無意味だ。
「一同、覚悟はいいか?」
「聞く意味あるかよ?待ちくたびれたぜ」
「俺はいつでも」
「今夜ばかりは俺も、一肌脱ぐとしようかな。それにしても、まさかこんな布陣で戦に赴くことがあるなんてね」
「俺とて少々不本意だが、仕方あるまい。華音が繋いだ縁だ」
「ああ、そうだね」
「これだけの将を動かせるんなら、派手な血祭りはあのお姫さんに頼んだ方が早いかもな」
「悪趣味な…」
「うちの姫に交渉するなら、油断はおすすめしないぞ元就殿。俺が唯一口喧嘩に負けた相手だ」
さらっと言われた衝撃の事実に驚く暇も与えず、光秀は九兵衛を呼ぶ。
九兵衛が鳴らした陣太鼓を合図に、潜んでいた兵が一斉に立ち上がった。
「___いざ、出陣」