第29章 姫さんと復讐鬼と悪の華
「継国の当主に…?お前が?」
「はるさんは当主をやめたがっています。『何十年もやっててさすがにそろそろきつい、疲れた、飽きた』と」
「……俺が生まれる前から当主だったらしいしな」
「不老不死かもしれませんね」
「その理屈だとお前もそうだということになるぞ」
「どうでしょう。死んだことないので」
かぐや姫の先祖返りである陽臣と華音が不老不死である根拠は無いというより、誰も知らない。
それは追々でいいとして、問題は華音が継国家当主になるやもしれないということ。
「なりたいのか?」
「特になりたいとは思いません。でも文は気になります。もし見つけられて中身を読んだらなりたくなるのかもしれない」
己にあり得る可能性を否定しないのは華音の長所だ。
おかげでどんな状況であろうと、たとえ500年の時を越えようと、継国華音でいられるのだから。
「俺は詳しくは知らんが、継国当主になれたら何を得るんだ?武家のように治める領地もないだろう」
「朝廷から死ぬほど嫌われます」
「失うものの方が大きいとは恐れ入った」
元々力が強すぎた家だ。
朝廷からも将軍からも警戒されている家は継国くらいで、それを分かっているからか継国の血を引いている者は現時点で3人しかいない。
増えないが失うことはない。少なくとも500年先までは。
華音が今すぐ当主になったところで、時期を見れば空臣に引き継がれるだろう。
要するに華音が当主になるのは、空臣が立派になるまでの繋ぎだ。
思ったより役目が重くないのも有難い。
「まあ、どの道この戦いが終わったらの話だな。もう寝ろ」
「…すみません。皆は交代で不寝番をしているのに私だけ」
「代わりにお前は毎度皆の食事を作っているだろう。適材適所だ」
華音も徹夜は普通にできるが、夜襲が来ないとも限らない。
その時に起きているのが華音だけでは心許ないだろう。
「…光秀どの」
「何だ」
「愛してます」
「………本当に何だいきなり」
「まだ言ってなかったので」
そう言ったのを最後に、華音はさっさと布団を敷いて眠った。
見事に言い逃げされたな、と呟いた光秀の耳は赤かった。