第29章 姫さんと復讐鬼と悪の華
「おまえは本当に悪い子だな」
「いひゃいれす」
義元にとどまらず、元就や顕如にまで華音が気に入られるのは光秀も予想していなかった。
お仕置きだと言って頬をみょーんと伸ばされた。
頬の感触で華音は今日も化粧をしていないことを知り、素でこれかと改めてかぐや姫の美貌に驚きながらも平静を保つ。
「この顔で敵将を籠絡するとはとんだ悪女だな」
「信長様みたいなこと言わないでください。それに好きでこんな顔に生まれたんじゃない」
「なんだ、嫌いだったのか」
「いいえ。ただどうせ美しく生まれるなら蘭丸くんみたいな可愛い顔か幸村どのみたいな男前が良かった」
「俺のそばにいながら何が不満だ」
「理想と現実は別物です」
図らずも華音のタイプが幸村だと知ってしまった。
この場に本人がいたら地蔵行平と千子村正が火花を散らしていただろう。
幸村どのには後で謝ろうと華音は適当に完結させた。
「光秀どの、今回のとは全く別の話なのですが、探し物がありまして」
「探し物?」
「はるさんに探せと言われて」
もう嫌な予感しかしなかった。
日ノ本全土を網羅している継国の当主がわざわざ華音に探し物を頼むなんて碌なものじゃないだろう。
「手紙です」
「手紙…文か?」
「はい。竹取物語の作者がかぐや姫に送ったと言われている文です」
「そんなものを見つけてどうする」
「今の私に必要なものだと言っていました。もちろん自分で探しますが、光秀どのには特定を手伝ってほしいのです」
「特定……なるほど。闇雲に漁っても無いから、あたりをつけねばならないということか」
「はるさんはそれ以外は何も言いませんでしたが、私を試しているのだと思っています」
「……何を」
「おそらくですが」
華音が紛れもなく継国の人間だというのは認めているはず。
その先に何を求めているのか。
「私が、継国の当主になることを」