第28章 姫さんと狐の交渉
朝起きたら皆同じ部屋で寝落ちていたと一悶着ありつつも、支度を終えて元就との約束の場所へ向かう光秀と華音と義元。
「さて華音、元就殿が連れてくるのは誰だと思う?」
「…将軍とも織田軍側とも味方ではなくて、元就どのが嬉々として協力するとなると……貴方たちと初めて会った日を思い出します」
正解だと言わんばかりに、光秀が笑みを深めた。
「義元殿は特に何もしなくていいが、念の為華音を見ていてくれ」
「言われなくても」
「過保護…」
拗ねたようにぷいっとそっぽを向いた華音だが、華音のことが大好きな2人には可愛いなという感情しか湧かないため逆効果である。
約束の場所で待つこと数分で、2人分の足音が近づいた。
「光秀…単独でこの私に会うとは、殺される覚悟はできているんだろうな」
光秀が呼ぶ男達がだいたい殺る気に満ちているのは良いことと言うべきなのか華音は迷った。
そんなくだらないことを考えている間にも、光秀は食えない笑みを浮かべて、交渉相手__顕如に本題を持ちかけた。
「足利義昭討伐に、顕如殿にもご協力頼みたい」
「断る」
「おや、部下の仇を討たないつもりか?」
「同胞の仇なら目の前にもいるぞ」
顕如が光秀に錫杖の先を向けた。
おそらくそこに武器が仕込まれている。
まあ、予想通りといえば予想通りだ。
顕如は織田軍の敵。
僧侶から復讐鬼に堕ちたほど、信長を憎んでいる。
そう簡単に信長の家臣である光秀の提案を飲むはずがなかった。
「光秀、お前の首を同胞達の供養に供えてやろう」
「やれやれ…やはりこうなるか」
「面白くなってきたじゃねぇか!」
顕如を止めるどころか、光秀も元就も己の武器に手をかける。
止めようと前に出ようとした華音は、危険だと判断した義元に止められた。