第28章 姫さんと狐の交渉
以前光秀と義元の間に割って入ったようなことができない。
そう判断した華音は、光秀たちが刃を見せる前に口を開いた。
「足利義昭は好きですか」
突拍子もないことを言い出した華音に、“何を言っているんだ”と“そんなわけないだろう”と言いたげな3対の目が華音を見る。
大の男3人に臆することなく、華音は言葉を続けた。
「その利害の一致を“連合軍”と言うんです。今協力し合えばここにいる全員に利があります。
問答無用で刃を抜かないで、“はい”か“いいえ”で答えてくださいよ!子供じゃないんだから!」
「な……っ」
継国が不老不死かもしれないというのは置いて、多分この場で一番年下であろう華音に、年上の顕如がそう言われるのは誰も予想していなかった。
拍子抜けした元就はぶはっと吹き出す。
「お姫さんに言われるなんてなァ!」
「……このまま刀を抜いて華音に子供扱いされるわけにはいかないな。顕如殿、あなたはどうする?」
「………ふん」
逡巡の末、顕如も錫杖を手元に戻した。
ひとまずは大丈夫、ということでいいだろう。
「おまえは性懲りもなく突っ込んで来るな」
「いひゃいれす」
光秀は華音の頬をみょーんと伸ばした。
顕如の気まぐれ次第で危ない橋を渡ったのだから無理もない。
だが、顕如は光秀に大事な人ができたことを知らない。
こんな優しい顔をする光秀を、顕如は知らない。
佐助と幸村がお茶を飲んで休憩していたところで、華音がスパーンと小気味いい音を立てて障子を開けた。
「顕如どのとの交渉に成功しました」
「ぶっ」
幸村が咽せた。