第28章 姫さんと狐の交渉
確かに華音と関係結んでしまったら後腐れありまくりだけど。
そもそも華音のような根がくそ真面目な少女と体の関係を持つのも無理がある。
それは決して彼女と付き合いが長いわけではない幸村の目にも明らかだ。
佐助と幸村のそんな感じの考察をしている間にも、華音は続けて信長の好み(あくまで予想)を言う。
「あとは……かわいい系で話し上手聞き上手で身長は私よりちょっと高い」
「蘭丸だなそれは」
「あ、光秀どの義元どの。おかえりなさい」
ちょうど湯浴みから戻ってきた光秀と義元。
信長と蘭丸の関係は深く聞いてはいけない。
光秀は早々に話を切り上げさせ、華音の横に座った。
「で、何をしていた」
「花札」
「へえ、いいね。戦況は?」
「華音さんが無敗です」
「ほう」
くだらない話の傍ら、幸村と佐助と華音は花札に興じていた。
確かに今の華音の戦況は幸村相手に大幅に有利である。
もう勝ちそうだ。
「お、猪鹿蝶。あがり」
「くっそー……強え」
「今更だけど何で花札持ってるの華音さん」
「信長様の本能寺暗殺大作戦が空振りになった場合の暇な夜用に持って来てたんです」
「お前が俺や信長様の心配を微塵もしていなかったのはよくわかった」
「心配し終わってたんですよ」
心配ってそういうものだっけ。
佐助達がそう思っている一方で、光秀は華音から同じようなことを言われた時のことを思い出す。
光秀が牢に入れられる前、華音と共に出演した舞台で将軍に一泡吹かせた時のことだ。
あの時も今も、華音は変わっていない。
自分の目と味方の目を信じているのだ。
「……そうだ。華音、これを返す」
「ああ、はい」
光秀は湯浴みに行く前に耳から外した、華音から預かった鈴の耳飾りを返した。
牢から出て華音と再会した際に、彼女へ水色桔梗の髪飾りを贈った直後のことだ。
あの状況からすればお返しともとれるが、なんとなく“預ける”の意味だと直感していた。
この耳飾りは、当人以外の所有物にはなれないから。