第26章 姫さんと狐の仲間探し
「この下らねえ世の中じゃ、偉い奴が正しいやつってことになってる。そのてっぺんにふんぞり返ってる男を倒す覚悟が、ぶん殴る覚悟が、お前にあんのか?」
元就は、この乱世はくだらないとはっきり言った。
華音が今まで出会った武将の中で、頭ではそう思ってはいても口にする者はいなかったからか、思わず聞き入ってしまう。
「大勢の奴らに悪者だと後ろ指をさされても、お前はお前の正義を堂々と振りかざせんのか?」
今までの華音ならば、自分の正義が何なのか明確ではなかった。
必要だとも思わなかった。
しかしここは現代ではなく、様々な正義がぶつかり合う乱世だ。
自分の正義を貫き通す覚悟がなければ、生き残れないことは身にしみてわかっている。
何より、光秀が正しいと断言した己の正義を、誰が相手でも曲げるわけにはいかなかった。
華音はこの時初めて、自分の本心を他人に告げた。
「私の正義は、安土の武将の方たちそのものです。だから、勝って私が正しいことを証明するんです。将軍よりも、あの方たちが偉くて正しいのだと」
正義が万物を救うわけがない。
華音の正義も聞こえはいいがその実態は、将軍を殺して足利を終わらせることだ。
彼女の覚悟はとっくに決まっていた。
黒曜石の瞳と紅玉の瞳が、提灯で照らされた夜の中で交差する。
「……お前___」
元就が何かを言いかけた時、目の前に白い小鳩の飴細工がずいっと差し出された。
「ご所望の飴だ。華音から離れてもらおう」
戻ってきた光秀が、華音の腕を掴んで引き寄せた。
「光秀、お前の女だからどんな奴かと思ってたら、かなりイカレてんな」
「他にはいない最上の女性なのは確かだな」
「へえ、そろってイカレてるってわけか」
元就は受け取った飴細工をガリっと噛んだ。
「まあいい。とにかく、仕事の話をしようぜ」