第26章 姫さんと狐の仲間探し
「元就殿にはまず……ある人物を、この同盟に引き入れていただきたい」
『ある人物』を周りの人間に聞かれたくないのか華音に聞かれたくないのか、光秀が元就に身を寄せ、極力小さな声で何かを囁いた。
そんなことをしなくても華音の耳はそれなりの小声なら十分聞こえないので、おそらく前者だろう。
周りの誰かには聞かれてはまずいその人物の名を光秀から聞いた元就は、紅玉の眼を輝かせた。
「面白え……!お前ってやつは嫌がらせの天才だな」
元就が絶賛するような相手。
内緒話にした意味がないとわかってはいても、聞かずにはいられなかった。
「大丈夫なんですか」
「……少々訳ありの相手でな。味方にできるかは五分五分といったところだ。うまくいったら、その時お前にきちんと説明する」
つまり、味方に引き入れるまで華音は知らないほうがいいということ。
その言葉で相手がだれなのか予想がついたが、光秀もそれは分かっている。
「善は急げだ。行ってくる」
「……『善』か。貴殿の口からそんな言葉が出るとはな」
「俺の選ぶ道が俺にとっての最善だ。生まれてこの方、迷ったことは一度もねえ」
そういいながら、元就は華音の方へつかつかと歩み寄り、彼女の顎を掴んで自分のほうへ向けさせた。
突然のことに華音は目を見開くも、至近距離にいる元就に顔を赤くするでも青くするでもなく、ただじっと見つめ返した。
その様子を見て満足そうに口角を上げた元就は、光秀が何かを言う前にぱっと手を離した。
「じゃあな」
ひらひらと後ろ向きで手を振り、あっという間に人ごみの中に消えていった。
光秀はすぐに華音の傍に寄り、彼女の頬に触れる。
「大丈夫だったか」
「平気です。先程のも話をしただけです。それよりも」
先程までの強張っていた顔が緩み、穏やかに笑って『お祭り、続けましょう』といった。
彼女の一番好きな顔を見た光秀も、つられて表情が戻った。
そのあとに合流した義元たちに、『毛利元就どのが加わった』と話したら幸村と佐助が間違って噛んだ飴細工を丸呑みした。