第26章 姫さんと狐の仲間探し
華音が袂から手を離したところで、元就が口を開いた。
「なあ光秀。手伝いの駄賃に、俺にも飴細工をおごれよ」
「飴を……?」
「ひとっ走り頼むぜ。俺はこのお姫さんと待ってるからよ」
「謝礼なら、後程それ相応のものを……」
「いいから俺の気が変わらないうちに飴ちゃん買って来いって」
強い声で、元就が光秀の言葉を遮った。
言外に、華音と二人きりで話したいということが分かった。
たった今協定が成立した手前、二重の意味で危ない目にあうことはないだろうと思い、華音のほうは了承する。
何より、元就が自分と何を話したいのか単純に興味があった。
「光秀どの、私は構いません」
「……すぐに戻る」
光秀は一瞬躊躇いながらも足早にその場を去ると、元就が華音の隣にドカッと腰を下ろした。
「で、華音だっけ?お前は何で光秀とここにいんだ?」
特に隠す理由もないので、華音は素直に答える。
「一番は光秀どのです。無事役目を終えて、ともに安土に帰ることを信長様から仰せつかっているので」
「…詰まらねえ理由だな」
「詰まらない?」
「お前自身はどう考えてんだ?味方を見捨ててトンズラこいた将軍を倒すことについて」
元就の質問に、華音は目を見開く。
質問の内容ではなく、自分のことを訊かれたことを。
ゆえに、言うつもりのなかったことを無意識に口に出した。
「……それは、二番目の理由です」
「あ?」
「“責任から逃げるな”と、一発でいいからあの男を殴りたい」
華音は、光秀のおかげで胸がすいたことはあったが、だからと言って将軍を許したわけではない。
むしろ、将軍を討つと決めてから、怒りは増幅している。
暴力がよくないことも、自分の倫理観がおかしいこともわかっている。
だが、数多の罪なき人々を傷つけ、それを何とも思っていない男を殴らない理由を見つけることが、華音にはいくら賢い頭で考えてもできなかった。
年端もいかない小娘の口から出てきた言葉が思いもよらなかったのか、元就はへえと溢した。