第26章 姫さんと狐の仲間探し
眉間に銃弾を撃ち抜かれれば、間違いなく人間は死ぬ。
華音はもちろん、世界一のスーパードクターといわれた彼女の祖父母でも、致命傷を治すことはできない。
とっさに華音の手が袂に触れたところで、光秀が睨み返して言い放った。
「将軍を放っておけば、貴殿の描く理想の祭りも夢のまた夢となるぞ」
「あ……?」
「将軍に、信長様と真っ向勝負する気はない。策を巡らし暗殺する___それがあの方のやり方だ。その矛先は、信長様だけにとどまらず、越後の龍に甲斐の虎、毛利家も例外ではないだろうな」
今回元就は、途中で抜けたとはいえ、将軍に協力していた。
つまり、元就が生きていることは当然将軍も知っていることになる。
ならば将軍は、織田軍や上杉武田と並んで、元就が裏で率いている毛利家も敵対視するのも妥当だろう。
「……それで?」
「貴殿の獲物が、闇から闇に葬られては、楽しい殺し合いも叶うまい。祭りの本番を無事終えるためには地道な準備がつきもの……そうは思わないか?」
「……はっ、よく回る口だぜ。ったくよお。俺の指先一つでテメエの頭が吹っ飛ぶってこと、わかってんのか?」
「重々承知だ」
「お前もたいがい、狂ってんな」
「貴殿ほどでは」
銃を挟んで鋭い眼光がぶつかり合い、やがて、ゆっくりと銃口が光秀の額から離れた。
「……いいだろう。今回に限り、お前の口車に乗ってやる」
銃は生成りの手拭いで丁寧に拭われ、元就の懐へとしまわれる。
元就の殺気がなくなったところで、華音は安堵のため息を吐いた。
「こんなチンケな戦、まったくもって気は乗らねえが、お前の言うことも一理ある。信長、謙信、信玄、そしてお前は、火薬と血しぶきの飛び散る戦場の真ん中で、俺がこの手で仕留める」
「これにて、協定成立だ」
元就の言葉にも光秀は一切動じることなく微笑み、元就も頷く代わりに鼻で笑って肩をすくめた。
理屈は危ないが、光秀の要望に元就は応えた。
光秀の度胸と交渉術は、やはり並大抵のものではないと、華音は改めて感心した。