第26章 姫さんと狐の仲間探し
その夜、京で開かれた祭りに、光秀たちは参加していた。
華音は珍しく袴ではなく、女性用の浴衣を身に着けていた。
「祭りでいつもの男装はさすがに野暮だろう?」
「…………化粧は」
「今回はしなくていい」
隅々までめかし込む必要はないと言われ、華音はほっと安堵のため息をついた。
今の華音の恰好は、涼しげな水色を基調とした浴衣に、長い黒髪は一束だけ残して簪でひとまとめにしたもの。
男装や眼鏡で誤魔化されていたかぐや姫の美貌が晒されていて、本人は複雑だった。
夜でなかったら大衆の目を引いていただろう。
「かぐや姫の顔は嫌いか」
「好き嫌いで結論付けられることではないのは、貴方もわかっているでしょう」
そもそも、大半の人間がかぐや姫の好き嫌いを考えたことはないだろう。
日ノ本の最上級の美人を象徴することはあっても、それに個人的な感情を抱くことはまずない。
陽臣はもっと複雑だろう。
なんせ、男の体で天女の美貌を授かってしまったのだから。
今回は光秀と華音が恋仲になって初の逢瀬のようなもの。
気を利かせた佐助が幸村と義元を連れて、彼らとは別行動となった。
光秀がそこの屋台で鶴の飴細工を買い、華音に差し出す。
「…ありがとうございます」
久しく感じることのなかったなかった祭りの感覚や、精巧な飴細工を見て華音の黒曜石の瞳は輝きを増す。
その緩んだ表情を、光秀は微笑ましく見ていた。
その目には、愛しくてたまらないといわんばかりの熱が宿っている。
視線に気づいた華音は、居心地悪そうに、しかしわずかに耳を赤く染めた。
「……食べづらいのですが」
「ほう。では食べさせてやろう」
「勘弁してください」
光秀の飴を持とうとする手を退けて、ぱくりと飴を咥えた。
飴特有の甘さが口の中に広がる。
華音はもともと甘いものは嫌いではなかったが、なぜかこの飴は特別美味しく感じた。
それは、久しぶりの祭りだったからか。
それとも、隣に愛しい人がいるからか。
後者の考えがよぎった時、湧き上がる羞恥心を紛らわすように、咥えていた飴をカリっと噛み砕いた。