第26章 姫さんと狐の仲間探し
若干嫌味が含まれていたのは否めないが、華音の言葉で義元は、彼女たちがここに来た意味を悟った。
するりと佐助の腕から抜け、優雅なしぐさで乱れた着物を治す。
「……なるほど。俺を説得するためにわざわざ華音を連れてきたわけか。気持ちはとてもうれしいよ。でも俺は……今川家の当主であることをやめたんだ」
「どうして」
「『今川家の人間として有終の美を飾りたい』という彼らの願いを、俺はかなえてやれない。だからせめて、滅びた名家の呪縛から彼らを開放することにした。家臣たちには財を分け与えて暇を出した。今頃、新たに主に仕える将を探しているはずだよ」
俺はこれからどう生きるべきか、しばらく一人で考えてみるよ、と義元はどこか他人事のように言った。
まるで、生きる目的をなくしたような。
そんな義元をよそに、華音はいたって冷静な声で言った。
「義元どの。貴方がひとりになることはありえません」
「え……?」
「お届けものだ。九兵衛、彼らをここへ」
「はっ」
「……!お前たち……」
九兵衛が連れてきたのは、森の中で見つけた、今川家家臣の一団だった。
流石に予想外だったのか、義元は驚きながらも、どこがばつが悪そうに問う。
「……どうして戻ってきたの」
「……今になり、ようやくわかりました。あなたが我々のことを思いやっていてくださっていたと」
「本能寺の戦のさなか、われらが名誉の代償に捨てようとした命を、あなたは拾ってくださった」
___光秀殿、俺をここで殺してほしい。その代わり、彼らの命は見逃してくれ。……後生だ___
___命を粗末にする人間に、誇りを語る資格はない!___
「我々の仕えるお方は……あなたしかおりません」
「しかし、我々のしてきたことを思い返すと、お見せする顔もなく……」
「こいつら、戻るに戻れなくて、お前に隠れて森ん中をうろうろしてたんだよ」
「もどかしかったから連れて来た」
「華音が一番容赦なかったな」
「ハッキリしない男は嫌いだ」と言って義元の家臣達を引っ張りあげる華音には容赦とデリカシーがなかった。