第26章 姫さんと狐の仲間探し
「なんでかは知らねーけど、義元は華音の言うことを聞き入れて、撤退したんだろ?説得、手伝えよ」
「わかった」
「いいだろう」
「お二方、もう少し躊躇ってはいかがですか」
わかってはいたが、この二人は頭の回転が速いゆえに、判断が早い。
案外似た者同士かもしれない、と九兵衛は思った。
「躊躇う理由などないだろう。俺は織田軍の裏切り者だぞ?役に立つのなら迷わず手を組むさ。宿敵だろうが、親の仇だろうがな」
「決まりだな」
「ありがとうございます、光秀さん、華音さん」
「礼を言う必要はねー、佐助。これはあくまで対等な取引だ」
幸村の言うとおり、この協定の有効期限は、将軍が倒されるまでである。
それが終われは、幸村たちとはまた敵同士に戻る。
それを物語るように、幸村の光秀を見る瞳には、抑え込まれた敵意が見て取れた。
「そうカリカリするな。ひと時とはいえ仲間だろう?」
「華音はともかく、信長の手先に心を許す気はねーよ」
「ではなぜ、取引を持ち掛ける気になった?幸村殿は、主君の命だろうと打算では動かない男とお見受けするが」
光秀の声には、いつもの尋問まがいの探るような色はない。
単純な興味だとわかった。
「おー、その通りだ。どっかの化け狐の違ってな。お前と手を組むと思うと反吐が出そうだ。義元のバカだって、できることなら放っときてー。
でも義元は……俺の主…信玄様にとって、大事な人間の一人だ。俺は、あの人にもう、何一つ失ってほしくねえ」
幸村は険しい顔で、決然と言い切る。
「それに、あんな奴でもいないとなると物足りねーしな」
「要するに『素直に言えないけど、義元さんを大事な仲間だと思ってる』と。そういうことだな、幸村」
「意訳すんな!あと華音、その顔をやめろ!」
華音が微笑ましいものを見る目で幸村を見ていたのがばれた。
「とにかく、めでたく協定成立だ。明日の朝、早速義元さんのいる場所へ向かおう。将軍を倒す仲間になってもらえるよう、義元さんの説得をよろしく、華音さん」
「イエッサ」
「それ返事か?」