第26章 姫さんと狐の仲間探し
光秀は二人の突然の訪問にも動揺を見せず、流れるように礼をした。
「武田信玄公の忠臣、真田幸村殿とお見受けいたす。お会いできて光栄だ。お隣は?」
「猿飛佐助と申します。上杉謙信様に仕えている忍びです。そして、華音さんと同郷の者でもあります」
「……なるほど」
だいぶ前のことだが、華音は光秀たちに『猿飛という名の同郷人がいる』と伝えていた。
そのことと話がつながり、合点がいったのだろう。
同時に、佐助もまた未来から来た者だと理解した。
「それで、ご用件は?」
「昨晩本能寺で起こった一部始終を、こっそり見させてもらいました」
「貴方たちもあの場にいたのか」
「ああ。漸く義元さんに追いついたと思ったら、戦の真っ最中だった」
「義元殿を……」
「あのぼんくらは上杉武田の一員なんだ。勝手に出てっちまった今もな」
華音の記憶が正しければ、今川義元は武田信玄の遠戚だ。
だがそれはあくまできっかけに過ぎず、自分の知らない、史実では見ることのできない彼らだけの絆があるのだろうとわかった。
「光秀さんと華音さんが、義元さんたちを逃がしてくれたのを、俺はこの目で見ました」
「……見た?」
佐助の言葉に反応した華音の声には、珍しく動揺の色がうかがえた。
あの場面を見たということはつまり、華音が大声でやめろと叫んだところも見られたということだ。
華音の複雑な心内を知らないまま、幸村が言葉をつなげた。
「お前の叫びも聞いたぞ。なんかあれだ、かっこよかった」
「………」
華音の普段の声は、年頃の娘たちと比べて低く、加えて穏やかだ。
少女とも青年とも取れない声は心地よく、耳にやさしく響くようで幸村は個人的に好きだった。
あの時聞いた声は、戦武将のそれとはまた違う魅力を感じた。
しかし、華音は仮にも年頃の少女である。
あの声を第三者に聞かれていて、あまつさえ直接褒められたとなれば、顔には出さないものの少し、否、かなり恥ずかしい。
「……忘れてくれ」
「なんでだよ」
なけなしの乙女心が垣間見えた瞬間であった。