第25章 姫さんと狐は新たな場所へ
困ったように笑う光秀の肩を、政宗は思い切りたたいた。
その光景に、華音は口元をほころばせる。
光秀がどんなに嘘をつき、偽り、一人で暗闇の中を彷徨おうとも、そんな光秀を丸ごと受け止める人たちがいる。
その事実が、華音には何よりもうれしかった。
安土へ戻る彼らを見送り、光秀と華音は二人きりになる。
「光秀どの、答え合わせをしてください」
「ん?」
「貴方が私の指南役になったのは、私がこの乱世を生き延びるすべを身に着けさせるためですか?もしくは、私が継国の者だと確かめるためですか?」
「半分正解だな」
光秀は、華音の髪をさらりと撫でる。
艶やかな黒髪が、朝日にさらされて鈍く光った。
「お前はいつぞや、俺たちをかばっただろう」
「……ん?」
「いや、それだけではないな」
何のことだといわんばかりに華音は首を傾ける。
光秀はぽつりぽつりと話し始める。
華音と出会ったばかりのころ、自分の心を動かした言葉の一つ一つが、昨日のことように鮮明に思い出された。
『貴方の言う通り、私がここにいてはいけないのなら、その刀で斬り払って止めればいい』
『……信長様が必要としたのが、ただ名のある武将ではなかったというだけの話では?』
『……っ貴方はどうして……!』
『貴方の方を、みんなの方を、必ず向いています』
はじめは少しの好奇心と興味だったとか、甘い言葉も本心からのそれだったとか、グダグダと長話をする必要はない。
伝えたいことは、たった一つだけだ。
「ずっと、愛していた」
「……!」
華音の黒曜石の瞳が大きく見開かれる。
「…抱きしめて、いいですか」
「……愚問だな」
その瞬間、問うた華音よりも速く、光秀は華音を腕に閉じ込めていた。
光秀に応えるように、華音も光秀の首に腕を回した。
「俺の行く道は地獄だが、もう離す気はないぞ」
「あなたと一緒なら天国も地獄も同じだ」
仮に、本当に地獄だったとしても。
この人と一緒に行けるなら、どこへだって本望だと心から思った。