第25章 姫さんと狐は新たな場所へ
朝に、二人の間に何があったのかは華音は知らない。
だが、秀吉も同様に、光秀を最後まで信じぬくと決めたと伝えたのだろう。
光秀の口元に浮かぶ笑顔は、いつになく朗らかで、瞳の奥の思いは隠されていなかった。
「だけどな……お前の言葉だけじゃ、信用できない」
「では、私が証人になります」
「どうやって証明する気だ」
「簡単です。私も光秀どのにご同行します」
目を見開く光秀と秀吉、政宗に対して、華音もまた約束を果たさんとしていた。
「信長様の命を、私はまだ果たせていません。『必ずやこの戦を生き抜き、光秀を俺の元へ連れて戻れ』と」
「……っ」
「一言一句、相違ない。華音、引き続き俺の役に立て」
「はい。今度は手首ではなく首に縄かけてでも引き戻します」
冗談みたく本当のことを言う華音に、光秀は短くため息をつく。
「この二人が組むと、俺の手には負えないな」
「当たり前」
不敵に笑う華音の頭を、光秀は優しくなでた。
「道中頼むぞ、華音」
「はい」
光秀を納得させたら、次は秀吉だ。
華音が秀吉どの、と短く呼びかけると、秀吉は逡巡の末、小刀を引き抜いて光秀と自分をつなぐ縄を断った。
「俺は光秀のことは信用できない。だから……華音を信じることにする。いいか光秀。俺はお前を逃がすためじゃなく、お前を取り戻すためにこれを切ったんだ。絶対に帰って来い。死んだら冥土まで追いかけて、今度こそお前をぶっ飛ばす」
「……やれやれ、それは御免こうむりたいものだな」
苦笑して、光秀は軽くなった手首を撫でた。
「光秀。貴様が死に、秀吉まで冥土は赴くとなれば、俺は両腕を失うことになる。必ず戻れ」
「……はっ」
「待ってるのは、秀吉と信長様だけじゃないぞ。家康と光成、蘭丸も待ってる。帰ったら、俺がうまい飯をたらふく食わせてやる」
「俺は味などわからないぞ」
「舌ごと鍛え直してやるよ。華音もできるって言ってたしな」
「…ああ、正しい食生活を続けたら味覚が戻ったって症例は普通にありますよ。光秀どのもそうじゃないですか」
「そんな雑な診断があるか」