第25章 姫さんと狐は新たな場所へ
「秀吉、光秀……。その手は何事だ……?」
手早く朝餉を済ませ、信長の元へ行くと、秀吉と光秀をつなぐ縄を見た信長は、政宗と全く同じ反応を示した。
笑いのツボが浅くなった華音は、口元を手で隠して小さく笑う。
「光秀を逃がさないための苦肉の策です。安土へ連れ帰り、その足で、身の潔白を証明させます。裏切者ではないと、安土中に知らせなければなりませんから」
「せっかくの誘いだが……秀吉、俺は安土へは戻らない」
秀吉の目論見に対して、光秀ははっきりと拒否した。
「お前……どういうつもりだ」
目を見開く秀吉と政宗、静かに見守る華音を横目に、信長は光秀の先の行動を予想した。
「____義昭を、追う気か」
「はい」
「だったら尚更一度戻るべきだろう。軍を編成しなおし、戦支度をしないとな」
「俺は、織田軍の一員として動く気はない」
「「何……?」」
全員が注視する中、光秀は一人落ち着き払っている。
この場の誰もが、光秀は何の勝算もなく動く人間ではないことを知っている。
そして、一度決めたらだれにも止められないことも。
光秀は言う。
将軍を斬りつけたことが明るみに出れば、光秀はただでは済まない。
将軍も将軍で、自分の醜聞になることを公にはしないだろう。
しかし、このまま見逃せば、将軍は何度でも同じことを繰り返してくる。
信長が堂々と斬ることができないのをいいことに。
それに対して、嫌疑が晴れていない光秀はまだ「織田軍の裏切り者」だから、何のしがらみもない、と。
「だからお前は、どうしてそう、一人で勝手に……!」
「と、お前が説教するだろうから、こうして事前に話したんだろう」
「……っ」
確かに、今までの光秀なら、また何も言わずに一人で暗躍していただろう。
「……策は、あるのか」
「誰に言っている?俺だぞ?」
「うまくいったとして……お前が安土に帰ってくる保証は」
「……秀吉、俺を信じろとは言わない。今後もどうせ俺はお前にうそをいくつもつくだろうしな」
「おい!」
「だが、先ほどの約束は果たす。俺は必ず安土へ戻り、お前とともに信長様をお仕えする。一生かけてな」