第25章 姫さんと狐は新たな場所へ
「あれ、佐助さんと幸村さんだ」
「あ……?って、空臣か」
「久しぶり」
「久しぶりー」
時同じくして、佐助と幸村も京に来ていた。
そこで偶然にも出会ったのは、いつかの時の美少年、基継国空臣。
華音や陽臣のような月を思わせる美しさとは正反対の、太陽のような屈託のない笑みに、二人は警戒を緩ませた。
「お二人は義元さんを追いかけに、かな?」
「まあな。お前は?」
「将軍が死ぬなら見届けなければならないって父上が。俺はただの興味本位でついてきた」
「陽臣さんがここにきてるの?」
「うん。でももういないよ。結局何も起きなかったわけだし」
空臣は何とも言えない笑みで佐助の質問に答えた。
彼らは、昨夜起きたことがもみ消されるであろうことを知っている。
織田軍は将軍に刃を向けた。
将軍は味方を捨てて逃げた。
真実がどうあれ、このことが公にさらされるのは、お互い避けたいことだから。
しかし、当然犠牲者も出た。
将軍が捨てた兵はもちろん、織田軍にも。
それがなかったことにされるのだから、たとえ織田軍と将軍の因縁に全く関係のない空臣でも、胸糞は悪いだろう。
空臣と同じ立場である佐助と幸村にも、その気持ちはよくわかった。
「……父上はね、ほっとしてた」
「え?」
「ああもちろん、将軍にじゃないよ。華音さんが光秀さんと義元さんをちゃんと止めてくれたことに、安心してた」
普段、身内以外のことで情緒を持つことのほとんどない陽臣が、珍しく感情を表に出していた。
それだけ、自分の弟子たちに心を向けていたのだろう。
もっとも、そのことに光秀たちが気づいていないのが面白いところだが。
「華音さんが診てくれてから、母上の体調がすごくよくなったんだ。俺も華音さんに感謝してるの。だから佐助さん、幸村さん」
空臣は、心からやさしく微笑んだ。
その表情は、年相応の少年そのもの。
「華音さんのことは、あなたたちが助けてほしいな」
二人の返事を待たずして、空臣は背を向けて去っていった。