第25章 姫さんと狐は新たな場所へ
「光秀どの、秀吉どの。政宗どのが朝餉を……」
光秀が休んでいた部屋の襖を開けた瞬間、目の前の光景を見た華音の言葉が途中で途切れた。
秀吉の左手と光秀の右手が、太い縄で固く結ばれていたのだ。
「………お邪魔しました」
「待て待て待て!」
襖を閉じようとしたところを秀吉が阻んだ。
華音と秀吉のはたから見たら奇妙な動きに、政宗は口を開いた。
「何やってんだお前ら……って、何だそれ」
政宗の視線もまた、固く結ばれた縄に注がれた。
「嫌がる俺を、秀吉が無理やりな……」
「気味の悪い言い方はよせ!これはこいつの逃亡防止対策だ」
「仲良しだなお前ら」
「俺の話聞いてたか?あと華音、その目をやめろ」
態となのか何なのか、華音の秀吉を見る目は、秀吉と政宗いわく「その手の趣味を持つ男が踏まれたいと希うような目」をしていた。
ひと悶着ありつつも、4人が円座して朝餉を口にした。
「秀吉、右手がこれでは箸が持てないんだが」
「その手に乗るか。安土に戻るまで何があろうと縄は外さないからな」
「わかった。外さなくていいから、お前が食わせてくれ」
「やっぱり一発殴っとくか……」
「冗談だ。華音、頼む」
「は?」
いつかの城下での時のように、口を開けて待つ光秀は絶対にこの状況を楽しんでいる。
そして華音の判断が早いことも知っている。
数秒迷った末、言われるがままに光秀の口に漬物を入れた。
「振り回されて大変だな、華音。お前には俺が食わせてやる。ほら、口を開けろよ」
「待て、政宗にやらせるくらいなら俺が。ほら、あーんしろ」
「おい、左手で楽々箸を持ってるじゃねぇか!」
「おっと、これはうっかり」
安土のいつもの光景が戻ってきたことを感じた華音は、
「……ふっ、ふふ、っはははは……!」
耐えられないといわんばかりに、鈴を転がすように笑った。
華音が無邪気に笑ったことに驚いたものの、つられて政宗も声を上げて笑い出した。
秀吉もあきれながら吹き出して、光秀の口元にもいつの間にか笑みが広がった。