第24章 泣き虫の姫さんと独りの狐
華音は、陽臣が光秀を弟子として愛した理由が分かった気がした。
(この人は、どこまで優しいんだ)
人々の平和を心から願い、そのためなら悪者や裏切り者とみなされるのも構わず、喜んで自分の命を投げ出す者が、この世にどれほどいるか。
母も大概だったが、光秀はもっとひどい。
手の甲で涙をぬぐおうとする手を、光秀がやさしくつかんで止めた。
「擦ったら目が腫れるぞ」
「……っ今まで、人前で泣いたことなんて無かったのに、止める方法がわかるわけがない……!」
華音は両親が死んだときも、友達ができなかったときも、祖父母が死んだときも、すべて一人で泣いていた。
部屋の隅でうずくまり、涙が止まるまでじっと待つ。
そして、涙を拭う者はついぞ現れることはなかった。
華音が時折、大人とも子供とも判別がつかない理由は、単純だった。
華音は、大人でもあるし子供でもあるからだ。
大人顔負けの潜在能力と医術、そして理性。
それに対して、子供のように笑うときは笑い、激しい気持ちも真っ直ぐにぶつけてくる。
彼女の言う理屈は正論ともいえるが、元は子供のように単純だ。
ただ、彼女は器用だから、それが表に出ていなかっただけだ。
「私が…っ、こんなに、泣くのは、誰のせいだと、思ってる……!」
「……俺のせいなら悪かった」
「心にもない謝罪なんていらない。どうせ貴方は、これからも自分を大切にしない」
「まあ、優先順位が低いことは確かだな」
あっさりと認めた光秀に、華音は小さな小さな力で光秀の胸をぽかりとたたいた。
「……なんで」
沈黙の末、やがてぽつりとか細い声が聞こえる。
「なんで、こんなに涙が出る。なんで、こんなに悔しい。
……どうして、こんな気持ちになる。どうして、光秀どのが自分を大切にしない分だけ、私が貴方を大事にしたいと思う。どうして、私はこんなに……
____貴方が愛しい……!!」
華音の言葉の一つ一つが、光秀の胸に響き、かすかだった光に熱が宿っていく。
気づけば光秀は、華音を両腕に閉じ込めていた。
「___俺にはそんなお前が、可愛くて仕方ない」