第23章 二度目の本能寺
「追うぞ、光秀」
「はっ。ただその前に華音を安全なところへ……、
!」
光秀が華音の方へ振り返ると、華音は先程光秀に斬られた敵兵を前に膝をついていた。
華音は二本指を相手の頸に当て、流れる血と共に段々と弱くなっていく脈を確認すると、すでに外に出て行った男に対して忌々しげに舌打ちをする。
「華音、光秀と共に行け」
「なっ……」
「……刀も振れない私が行っても、足手纏いになりますよ」
「足手纏いがいるくらいが、切れ味の鋭過ぎるこやつには丁度良い」
「……!」
「華音、必ずやこの戦を生き抜き、光秀を俺の元へ連れて戻れ」
華音は、信長がここに華音を連れて来た意図を漸く理解する。
何もかも独りで仕舞い込んでしまう光秀に、これ以上無茶をさせないためだ。
「分かりました」
立ち上がった華音は、光秀のそばへ寄って光秀の手を握る。
黒曜石の瞳にはもう、迷いも狂気もなかった。
「良いな、光秀」
「___主命とあらば」
信長の鋭い眼差しを向けられ、光秀の口元がふっと綻んだ。
「では行くぞ。二人とも決して死ぬことはならん。
____いざ……!」
外では敵味方が入り乱れ、凄まじい斬り合いが繰り広げられていた。
誰かが放った火矢が垣根を燃やし、ぶつかり合う刀が煙を揺らす。
予想はしていたが、逃げた将軍の姿は見当たらない。
縁側に出ると、華音と光秀に気づいた敵兵が刀を振り上げ迫って来た。
「華音、俺のそばを離れるな」
「はい。光秀どのも、私から離れないでください」
「……頼もしくて何より」
致命傷には至らない軽やかな太刀筋で敵兵を次々と転がし、敵の合間を駆け抜ける。
華音はその光景から目を離さず、光秀についていく。
「「………!」」
二人の足が、石畳の上で止まる。
「華音、君とはもっと趣のある場所で再開したかったな」
「…義元どの」
手負いの家臣たちを率いて、戦場に不釣り合いな優美さをまとった男が、二人の前に立ちふさがっていた。