第23章 二度目の本能寺
「___そろそろか」
ふと、信長が視線を外へと投げた。
華音も信長の視線を追うと、外から馬の蹄の音と兵達のどよめきが響いてきた。
「何ごとだ……!?」
大勢の軍を率いてやって来た隻眼の男は、したり顔で敵兵らを見据えた。
「謀反人、明智光秀はここか?」
「政宗!?お前、どうしてここに……!?」
「おっと。織田軍の謀反人を追って来てみれば、仲間の秀吉が何者かに襲われているぞ。助太刀しない理由は無いな。
___いざ!」
政宗は腰に携えた燭台切光忠を引き抜き、敵兵に向けて振るった。
京に来る前、信長が政宗に耳打ちしていたのはこれかと、秀吉は状況を理解した。
「……っそういうことか。白々しい真似しやがって。背中は任せたぞ、政宗!」
「背中だけと言わず、暴れさせろよ」
政宗率いる百を超える兵が、みるみるうちに敵兵を薙ぎ倒していく。
形勢はあっという間に逆転し、義元の軍が不利となった。
しかし相手は引かなかった。
「引くな!戦え!ここを離れれば死に場所は無いぞ!」
「……っ」
ここで勝つか死ぬかしか頭にない家臣らに、義元は美しい眉を顰める。
一方で将軍は、織田軍の大軍が京に来たことに異議を唱える。
「っ……軍を率いて京に入り、私を討とうとは……!ますます朝廷が許さんぞ!」
「貴様の耳は飾りか?政宗はあくまで、織田軍の謀反人を追って来ただけ。京にたどり着いたのは偶然だ。そして奴が討とうとしているのは、偶々遭遇した秀吉を襲撃する『何者か』の一団に過ぎん。朝廷には縁もゆかりも無い、小競り合いだ」
「……っ」
信長の言葉は、言ってしまえば屁理屈だ。
だが義昭にはそれを覆す言葉も力も無い。
「___義昭様、ご覚悟を」
光秀が刀を振り下げる。
銀色の刃が振り下ろされる、その間際、
「そこの者、来い!」
「!?ぎゃ……っ!」
「……!」
将軍が強引に引っ張り寄せた敵兵が、光秀の刀で斜めに斬られ、バタリと倒れた。
なんの躊躇いもなく味方を盾にする有様に、華音の頭に血が昇った。
「何を呆けておる!早う私を外へと連れ出さんか!」
「「……っ、は!」」
敵兵は自分達の身体で壁を作って将軍を囲み、もつれるように外へと逃げ出した。