第23章 二度目の本能寺
「やはりそういう腹づもりだったか。この狐めが」
「……御館様には、お見通しでしたか」
「俺だけではない」
信長はちらりと華音を見る。
その時初めて、光秀と華音の目線が交わされた。
華音は、将軍が黒幕だと分かった時点で、光秀がどう動くのか察しがついていた。
ただ、憶測でものを語るのを好まないから、何も言わなかったのだ。
将軍を手にかければ、いくら信長といえどその立場や織田軍の相続が危うくなる。
だが、光秀一人の仕業となれば話は別だ。
周りからは、『織田軍の裏切り者』というレッテルを貼られているのだから。
故に光秀は、誰にも言わずたったひとりで無茶をした。
あの日、光秀が将軍の使者と密談しているのを目撃した時、華音は光秀に掴みかかってその言葉を紡ごうとした。
____っ貴方はどうして……!!____
(___どうして、独りで無茶をする)
そう言いたかったのに、出来なかった。
だから華音は、せめて光秀と一緒にいることを選んだのだ。
……その気持ちが、恋心に変わったのは正直想定外だったが。
切なげに光秀を見る華音に対し、光秀は困ったような笑みで返した。
「おのれ……!初めから計算づくで我が使者の誘いを受けたというのか……!」
将軍の顔からは取り澄ました高貴さが消え、剥き出しの悪意が浮かぶ。
尤も、華音は、華音の血は、将軍の血を高貴だと見做したことなどないが。
「生きてここを出られると思うな!表にいる我が兵がそなた達の手勢を殲滅し、今にここへ参る!信長ともども本能寺で果てるが良い!」
怒りに満ちた金縛り声が部屋に響く。
確かに、今は外は秀吉が敵兵を食い止めているが、数の力で突破されるのは時間の問題だろう。
それが、このままの状態である話ならば。
ふと華音の頭に、秀吉が戦っているであろう相手方の大将である、義元の顔が浮かんだ。