第23章 二度目の本能寺
その時、襖が蹴破られた。
「しばらくぶりです、信長様」
「……光秀」
「光秀どの」
「………」
光秀が華音を見ようとしないのは、気のせいではないだろう。
土足で入り込んだ十数人の敵兵が、じりじりを華音達を部屋の隅へと追い詰める。
信長の方には華音と家臣が二人いるだけだ。
「観念せい、尾張の大うつけ」
先頭に立つ光秀の背後から響いた声に、信長が片眉を上げた。
華音はさりげなく体をよじり、敵兵を使ってその男から自分が見えないようにした。
「うつけはどちらか、幾度も貴様に教えてやったはずだがな」
「この期に及んで虚勢を張るか。滑稽よのう」
光秀と兵たちに守られながら、将軍義昭は乾いた笑い声を上げる。
華音の目には、将軍の方が滑稽に見えた。
「ときに光秀、くれぐれも気を付けろ。私の衣を汚れた血で汚さんようにな」
「心得ました」
「明智光秀……っ、この裏切り者が!」
家臣の一人が怒りに顔を歪ませ、光秀に飛びかかる。
しかし、彼を背中から斬りつけたのは、信長のそばに控えていた別の家臣だった。
「お前……っ何故!?」
「まんまと騙されたな。私はもとより義昭様に仕える身だ」
厳選したはずの家臣の中にも、伏兵が潜んでいた。
「覚悟しろ、信長」
「………」
敵兵が殺到し、信長を羽交い締めにする。
華音の身も、数人がかりで押さえ込められた。
「さあ光秀。魔王の首を刎ね、この場で私に献上せよ」
「____仰せのままに」
すらり、と地蔵行平を引き抜き、刀身が夜闇に光る。
その先は、信長を指している。
華音は光秀の行動に一切動揺することはなく、真っ直ぐ目の前の光景を見ていた。
押さえ込まれた信長も、動じることなく光秀を見据えている。
「やれ」
「____はっ」