第23章 二度目の本能寺
華音たちは本能寺の一室で、『その時』を待っていた。
念の為、華音は自分が眠ることのないように本と眼鏡を懐にしまっていたが、どうやらその必要は無さそうだ。
信長は腕組みをして胡座をかき、微動だにせず虚空を見据えている。
秀吉の手は、愛刀である一期一振の柄にかかったままだ。
二人のそばを離れないよう命じられた華音も、物音一つ立てずに大人しくしていた。
そしてふと、何かに気づいた華音が顔を上げたその時、
「敵襲、敵襲ーー!!」
「来おったな」
待っていたと言わんばかりに、信長は口角を上げた。
華音は立ち上がり、極力二人から離れないように外を見ると、多くの敵兵が寺を囲っているのが見えた。
そして先頭にいるのは、光秀と義元だった。
「信長様はここに!華音、おそばを離れるな!」
「秀吉どの、どうか気をつけて」
「抜かるな、秀吉」
「はっ!」
家臣二人を護衛に残し、秀吉は待機していた兵を連れて飛び出して行く。
表を見ると、寺の入り口に向かって敵兵がどっと押し寄せていた。
先陣をきっているのは光秀で、その後ろにはそれはそれは大事そうに守られている足利義昭の姿が見えた。
今宵が新月であることが幸いだった。
また華音が“ああ”なったとしても、目に見えることはないから。
このままでは、こちらに敵兵が来るのも時間の問題だ。
「華音、貴様が俺の役に立つ時が来た。まもなく光秀がここへやって来る。貴様は彼奴から目を離すな」
「……はい」
信長の意図は華音には分からない。
しかし、信長は意味のないことは言わないし、そもそも光秀に関しては信長と約束していた。
『華音、光秀を頼むぞ』
そう信長に頼まれたのは、他でもない華音なのだから。