第4章 姫さん、城下に行く
「きゃーこの子カワイーー!!」
「ヴッ」
女としてあまりよろしくない呻き声をあげた華音に抱きついたのは、老人の経営する女郎屋の遊女。
楼主である老人が連れてきた者がどうやらツボに入ったらしい。
「楼主!この方は私がやっていいですか!?いいですよね!?」
「私の恩人だ。お前だけじゃなくあと5人は連れて丁重にもてなせ」
「やったー!!」
ここで初めて、華音がこの時代に来て最初の危機に陥っていることに気づいた。
合計6人の遊女達にもみくちゃにされながらも必死に言葉を繋ぐ。
「ちょっと待ってください、あの、ほんとに、私が貴女方から施しを受ける必要はないというか」
「遠慮しなくていいんですよ〜!」
「こんな綺麗な方なら大歓迎だわ!」
「私は!女!なんです!!」
華音が(珍しく)叫んだ時はもう遅かった。
ほとんど服を脱がされ、残っているのはサラシと腰巻のみになっていた。
そして更に不幸が重なり、サラシがぶつりと切れてはらはらと落ちて、上半身ががっつり晒されることになった。
遊女達の視線がただ一点に集中する。
そこには、サラシを巻くのも納得の大きさのものがあった。
すぐに華音がサッと隠したが遅かった。
「「「………」」」
同性間での気まずい空気が流れる。
沈黙を破ったのは、遊女の一人だった。
「………や」
「や?」
「…やっぱりカワイーー!!!」
「グハッ」
本日2回目の呻き声である。
「お侍様の格好なのに女の子でお医者様で綺麗で可愛くておっぱいが大きいなんて何なのよもう完璧じゃない!!」
「完璧って何が」
さりげなく触ろうとするのをなんとか引き剥がし、予備で持ってきていたサラシを再び巻いて元に戻す。
1番冷静だった遊女が華音の肩をぽんと叩いた。
「諦めな。諦めて遊女になりな」
「医者だよ私は」
「やだねぇ軽い冗談だよ」
「結構重かった。米俵くらい重かった」
信長と初めて会った時も、寺の坊主と密通している遊女と間違えられたのを思い出す。
なにゆえこの時代の人達は私を遊女にしたがるのか、私にも遊女にも失礼だよあの野郎、と華音は思った。