第21章 狐の謀反
信長からの決定に、秀吉は慌てて異議を唱える。
「信長様、どうかお待ちください!あいつは……っ、あいつは……!」
「よせ秀吉。ここで俺たちが何を言おうと意味はない。光秀の気が変わらない限りな」
「俺たちは、俺たちにやれることをやるしかないですね。光秀さんが抜けた穴を埋めて、上杉武田の侵攻を防ぎ続けること。それから……」
「顕如を捕らえ、光秀様との関係の真偽を問いただすこと、ですね」
「人の言葉を横取りするな、三成」
「華音、貴様は光秀に代わり、奴と共に調査した例の謀反の疑いについて俺に報告しろ」
「はい」
「秀吉も聞いておけ。京の公家連中からの呼び出しには、貴様を代わりに連れて行く」
「……はっ」
華音と秀吉を残し、他の武将たちはそれぞれの仕事に戻っていった。
力なく立ち上がった蘭丸の顔が、少し青ざめていることを華音は見逃さなかった。
「蘭丸くん、大丈夫?」
「華音様……。何でもないよ、ちょっと色々、びっくりしちゃって」
「……そう」
「華音様、あんまり落ち込まないでね。光秀様が顕如と繋がってるなんて、絶対にないよ」
「…ええ、分かった」
本音が半分と、元気のない華音への励ましが半分だろうか。
華音は蘭丸の言葉に、素直に頷いた。
「華音、早々に報告を始めろ」
「はい」
「___ほう……。この手で骨抜きにしてやった名ばかりの将軍が、性懲りもなく旗を揚げたか」
事の顛末を話し終えると、信長は不穏な笑みを浮かべた。
「上杉武田の領地でも、同じような謀反の噂が頻発しているそうです」
「なるほど。標的は俺ひとりではない、というわけか」
「潜入中によくそんなことまで調べられたな」
「偶然、その領地にいる人達が噂しているのを聞きました」
実際、華音が佐助や幸村と会ったのは偶然だ。
義元を追いかけて来たのがあの二人ではなかったら、華音がこの情報を知り得ることはなかっただろう。
「よくやった。あとはゆるりと休め、華音」
「……信長様」
「ん?」
「二つ、お願いがあります」