第21章 狐の謀反
「畜生……っあの大馬鹿くそったれ分からず屋野郎が……!」
畳を削る勢いで、秀吉が拳を打ち付けた。
「少しは落ち着いたらどうですか、秀吉さん。……はぁ、俺にこんなこと言わせないでくださいよ」
「そういう台詞を吐くのは本来、光秀の役目だからな」
「「………」」
光秀投獄の直後、武将たちは広間に集まり、難しい顔を付き合わせていた。
華音もその場にいた兵達に信長達のもとへ行くように言われ、光秀が捕まった時の様子を皆に伝えた。
「困ったことになりました。光秀様ご自身が、あっさりと反逆の企てをお認めになるとは……」
「こんなの絶対おかしいって、三成様!光秀様が……顕如と繋がってるだなんて」
「多くの者たちの前でご本人が断言したとなれば、牢からお出しする手立てはありません」
冷静に語る三成に、いつもの穏やかな笑みはない。
目を伏せて皆の様子を伺っていた華音が、三成に質問した。
「三成くん、光秀どのが顕如と繋がっているという証拠は?」
「充分にそろっていますね。いっそ、不自然なほどに」
「それ!顕如の手先が自白しただけじゃなくて……そいつの持ち物の中から、今になって光秀様との密書がゴッソリ出てくるなんて、逆に嘘くさいよ!」
「たとえ裏切っていたとして、光秀さんがやすやすと捕まるとも思えないね」
「散々周囲を煙に巻いた挙げ句、うまいこと言い逃れるだろうな、いつものあいつなら」
「そういうふざけた真似ばっかりやってるから、ややこしい事態になるんだ……!何考えてやがる、あの馬鹿……っ」
皆、光秀は本当は裏切っていないと思っている。
華音とてそうだ。
考えられるのは、誰かが光秀を陥れようとしたことだが、光秀本人が認めてしまった以上、牢から出すことはできない。
「……華音」
「はい」
「『バレてしまったのなら仕方ない』……たしかに光秀はそう言ったのだな?」
「はい。確かにそう仰いました」
「___そうか」
信長は頷くと、広間に集う面々を見回した。
「光秀はこのまま投獄し、反逆の企ての全貌を取り調べることとする。すべて明らかになった暁には__光秀を手打ちにする」