第20章 狐の喜劇
「……は」
「………っ」
無理矢理振り向かせた光秀の顔が、僅かに赤く染まっていた。
「__いいから行くぞ」
「……はい」
スタスタと先を歩く光秀の足取りが、いつもより速い。
前を向く光秀は気づかなかった。
光秀の後ろを歩く華音の顔が、光秀につられるように赤く色づいていたことに。
二人が一団のところに戻る頃には、もう表情は戻っていた。
元々光秀も華音も、感情を分かりやすく表に出すタイプではないので、先程のは奇跡と言えよう。
「華音、急いで小道具を仕上げろ。本番は明日だからな」
「任せてください」
「……継国家の“任せろ”は信用できないな」
「どいつもこいつも何なんですか」
本当に陽臣は光秀や義元に何をしたんだ、と思わずにはいられなかった。(あと、ついでに将軍)
衣装の小道具を仕上げながら、気になっていたことを訊く。
「光秀どの、これはどういうお芝居なんですか」
「ちょっとした喜劇だ。俺が筋書きを考えた」
この短時間で考えたのかと、華音は目を見開く。
「まあ楽しみにしていろ。いい見世物になること請け合いだ」
きょとんとする華音に、光秀は不敵な笑みを浮かべてみせた。
そして、大勢の人の運命を揺り動かす、祭りの夜がやって来る。