第20章 狐の喜劇
華音は急いで光秀のもとへ戻った。
「光ひ…光さん」
「おや、お帰り我が妻。買い出しは無事済んだようだな」
一座のみんなと稽古をしていた光秀は、休憩の指示をして輪を抜け出し、華音から荷物を取り上げた。
「話があるので少しこちらに」
「ほう、いつになく積極的だな」
冗談を聞き流して、光秀を引張って一座を離れ舞台裏に回る。
「謀反の疑いがある大名が没落した将軍を招いていた。それが事実なら小国のいざこざでは済まない問題になる」
華音はもう、光秀が足利義昭を知っている体で話し始める。
光秀のポーカーフェイスからは何も読み取れないが、反論されないのを肯定と見做した。
「__光秀どの、貴方は……この出張が終わったら、“どこに”行くつもりですか」
「………お前の考えていることが当たっているとしても、それは五百年先の世から来たお前には関係のないことだ」
「関係ならあります」
「…なぜ」
光秀の師匠と同じ継国だから。
織田の姫だから。
かりそめといえど夫婦だから。
理由はそれくらいだろうと、光秀は高を括っていた。
「貴方が大事だからです」
「………!」
だが、華音の答えはどれも違っていた。
もちろん光秀が思っていたのもあったかもしれないが、一番に思っていたのはそれだった。
後になって告白まがいのことをしたことに気づいた華音は、遅れて訂正した。
「…光秀どのに限った話ではなくて、安土の人達も含めての話です」
「……まったく、何を言い出すかと思えば。話はそれだけか?この後のことを考えるのは良いが、今は祭りの支度が最優先だ。仕事に戻るぞ」
「…ちょっと」
結構恥ずかしいことを言った華音としては、光秀のそっけない態度は心外だった。
逃がさんとして、立ち去ろうとする光秀の腕を掴む。
この時の華音は完全に頭から抜け落ちていた。
光秀がそっけない態度をとるのは、どういう時なのかを。