第4章 姫さん、城下に行く
「華音さん、今って暇?良かったら店の商品見るがてら少し話したい」
「うん暇」
華音は、佐助と幸村の立場がどこにあるのかおおよその察しはついている。
しかし、お互い口にしないから今のところはセーフだと割り切る。
万が一武将の誰かに問い詰められたとしても、聞いていなかったと言えば済む話だ。
元より現代人仲間の佐助を売るつもりはないが。
「奇麗な細工。誰が作ったのこれ」
「幸村」
「すごい」
「…別に大したことじゃねーよ」
素直な華音に対して、幸村はやはりぶっきらぼうに応える。
女は個人の価値観の違いはあれど綺麗なものが好きで、華音とて例外ではない。
特に今回のは、一つ一つの細工が施された装飾品に目を引かれたのだ。
華音から尊敬の眼差しを受けて居た堪れなくなった幸村は、佐助と同郷のよしみで値引きするから何か欲しいものを選べと言ってきた。
ツンデレだ、と佐助と華音は思ったが口にも表情にも出さない。
「じゃあ、羽織留め」
「羽織留めならこの辺だ」
袴の上に白い羽織を羽織っている華音は、何か留めるものがあればと思っていたのでちょうど良かった。
「それで華音さん、この前言ってたことなんだけど」
「うん」
「あの時と気持ちは変わってない?」
「うん、変わってない」
華音は羽織留めを物色しながら、佐助に告げた。
「私は帰るつもりは無いよ」
「…理由を聞いても?」
「逆だよ。帰る理由が無いんだ」
普通、故郷に帰りたいと思う理由は、そこに家族や恋人や友人がいるからだ。
しかし、華音にはそれが無い。
半年前に祖父母が亡くなってから、ずっと独りだったのだ。
「私が医者をやっていたことは聞いたね?」
「うん」
「今までこの国に居ながら通っていたものだった。ちょうどひと段落ついて本格的に海外に住もうと身辺整理してた時にここに来たから、未練は無いんだ」
淡々と話す様子は、嘘をついているようには見えなかった。