第20章 狐の喜劇
「うん、似てる」
義元は言葉を偽らずに言った。
華音は陽臣と容姿が似ている。
というより、同じなのだ。
どちらもかぐや姫の先祖返りだから。
かぐや姫が現代に生まれていたら華音の容姿になっていて、この時代に男として生まれていたら陽臣の容姿になっていた。
わかっていたことなのに、華音はそれが少しだけ悲しくなった。
ほんの一瞬でも、光秀や家康が見せるやさしさが、自分ではなく陽臣に向いているのではないかと思ってしまうから。
しかし、華音がそれを疑うには、ある一つの見落としがあった。
「でもね、俺は初めて君を見た時、あの人に似てるとは少しも思わなかった。というか、だいぶ後になって似てるかもって思い始めたんだ」
義元の言葉は、義元だけが思っていたことではなく、光秀や家康、謙信も思っていたことだった。
その証拠に家康なんかは、光秀に言われるまで気づくことはなかった。
「俺が確信したのは昨夜、月明かりに照らされた君の金色の瞳を見た時だ」
「やはり見えていましたか」
「眼鏡越しだったから、はっきりと見えなかったのは残念だったけどね」
義元はおもむろに、華音の手を包み込むように持ち上げ、包帯が巻かれた手のひらを見た。
「…痛かっただろう」
「もう平気ですよ。自分でやった傷は痛くありません」
冗談めかしく言う華音に、義元は形のいい口元を緩めた。
「君は強いね。生きる活力に満ち溢れてる。こうして話してると眩しいくらいだ。俺とは対極だな」
「義元どのだって、安土の市ではいきいきしておられましたよ。あれで活力がないなんて言わせません」
「ふふ、君の目にそんな風に映っていたのなら嬉しいな」
義元の目が、何かを懐かしむようにうっそりと細められた。
それが華音には、本能的に危険なものに見えた。
「義元どの」
「ん?」
「莫迦なこと、考えてませんよね」
義元はその質問には答えず、ただ美しい笑みを深めた。