第20章 狐の喜劇
(__あと、必要なものは…)
その日の昼下がり、光秀に頼まれた買い物のメモを手に、華音は村の市を訪れた。
安土に比べると、活気も品揃えも雲泥の差だ。
例えば染め物なんかは色の種類がお世辞にも豊富とは言えず、光秀に頼まれた色のものが無い。
致し方ないと、白い布と染料を買って急いで染めることにした。
小道具を作るため必要最低限の物を手に入れ、パンパンの風呂敷を抱え直した時、懐かしい声がした。
「華音さん……!」
「お前……こんなとこで何してんだよ!?」
「…!佐助くん、幸村どの…貴方達こそどうしてここに」
駆け寄って、お互いにまじまじと見つめ合う。
「俺たちと君は、市で出会う運命なのかもしれないな」
「冗談抜かしてる場合かよ」
幸村は厳しい顔をして、華音に歩み寄ろうとする佐助の襟を後ろから引っ張って止めた。
「いくら相手がイノシシ女とはいえ、仮にも敵方の人間に姿を見られてんだぞ。お前はもう知ってるだろ、俺たちが何者か」
「…ええ。ですが、二人がここにいるのが織田軍関連でないなら、睨み合う理由はありませんよ」
「…まあ、一理あるな。つーか、よく怖がんないでいられるよな、お前。さすがは佐助の友達、変人だわ」
「幸村、その言葉は君にも丸ごと跳ね返ってくるけど問題ないか?」
「あ」
「……ふっ」
普段笑うことのない華音が、か細くも鈴を転がすように笑うのを見て、幸村と佐助も緊張が解けた。
「…私は今、こちらの事情で素性を隠してここにいますが、二人はもしかして義元どのを探しに来たのですか」
「「!!」」
「あいつ、この国にいるのか!?」
幸村は思わぬ人から義元の名が出たことに驚き、華音に詰め寄った。
「華音さん、俺たちがここへ来たのは、君の言う通り織田軍との戦とは無関係だ。義元さんと、彼を当主に掲げる今川家の家臣……越後から失踪した彼らを、捜しに来たんだ」
「義元どのが失踪……?何のために……」
「それがわかんねーから探してんだ。この大事な時に、余計な面倒かけやがって」