第16章 姫さんと狐の噂
「ねえ華音様! これって一体どういうことなの?」
「私もそう思った」
「気にするな、蘭丸」
「無理。俺だけじゃなくて城のみんなが気にしてるよ」
確かに監視をするとは言われた。
だがここまでとは思っていなかった。
「華音様から離れなよ、光秀様。ここ数日べったりじゃん!」
あれから数日ほど経ったが、華音が毎日出るほどのことが起こらないのをいいことに、光秀は四六時中華音をそばに置いた。
華音は他人には任せられないもの以外の仕事もできるため、この頃光秀の仕事はかなり捗っている。
秀吉や政宗がよく華音を取り合っていた気持ちが分かった。
ちなみにその時の華音は「どちらの御殿にも行きたくない」と嫌そうな顔をしていた。
「光秀様、独り占めはよくないよ?華音様、俺のことも構って♪ねっ?」
「そうしたいけど、もれなくこの方もついてくる」
「光秀様は遠慮しとく。華音様、行こ!」
華音の袖を引っ張る蘭丸の手を、光秀は容赦なく手刀で払った。
「いったーい!骨折れたー!」
「どれ、見せてみろ。ちゃんと折れているか確かめておこう」
「何それ怖っ!」
蘭丸は素早くその場から飛びのき、可愛らしい頰を膨らませる。
「華音様、こんな人のお手伝いなんてやめときなよ。ロクなことないよ絶対!」
「大丈夫、とうに知っている」
何が大丈夫なのか全く分からなかった。
これ以上蘭丸の前にいるとボロが出かねないので、光秀は華音に先に政宗の御殿に行くように促し、華音は大人しくそれに従った。
「……どういうつもりか知らないけどさあ、華音様を傷つけたら許さないよ? あの子は俺の命の恩人なんだ」
「残念ながら、手遅れだ」
「な……っ」
蘭丸の態度からして探りというより、どうやら本当に華音のことを案じているようだ。
「……冗談だ。あの娘の無事を祈るなら、余計な口出しをしないことだ」
「なあにそれ。脅迫?」
「忠告だ。お前だって“痛くもない”腹を探られたくないだろう?」
「……あなたにだけは言われたくない台詞だね」
そう吐き捨てると、蘭丸は光秀に背を向けて立ち去った。