第16章 姫さんと狐の噂
やがて、華音が折れた。
「…話します、から」
「ん…?」
「生い立ちも、誰にも言ってなかったことも、ぜんぶ、話しますから」
だから、と華音は心の中で言葉を繋ぐ。
(だから、私を巻き込んで。ひとりで抱え込まないで)
それを口にできない自分が、ただただもどかしくて悔しい。
光秀は掴んでいた腕と腰をそっと離す。
「お前が話す気になったのなら、茶でも点てるか」
「……茶ですか」
「長い夜になりそうだからな」
華音は全てを話した。
まず自分が五百年後から来たこと。
医者は医者でも、軍医という特殊な職業だったこと。
姓名が継国で、陽臣や空臣の子孫だということ。
陽臣と同様に容姿がかぐや姫と同じで、男装で誤魔化していたこと。
そして最後に、今日訪れた陽臣の華音への二番目の用向きを。
話を終えたのは、光秀の点てた三杯目のお茶を飲み終えた頃だった。
美味しかったからつい飲み過ぎた自覚はある。
「やはり本当にあの人と同じ血だったか」
「…そんなに驚かないのですね」
「時折似ていたからな。月を見上げている時なんかそうだった」
「あれか…」
なんせ月は先祖の故郷だ。
満月の時は特に複雑な表情をしてよく見上げるのは致し方ないとしか言えない。
「今更ですが、信じるんですね」
「継国家関連で嘘をつく者はそうそういない。お前の頭脳も顧れば、今より発展した未来から来たのなら納得がいく。しかし…」
光秀は、やや感慨深いものを見る目で華音を見た。
「途絶えなかったのだな」
何がと訊くのは野暮だ。
華音の先祖である陽臣は、己の容姿と血を忌み嫌っていた。
それが今や空臣という息子がいて、華音という子孫がいる。
「空の両親は、どちらも空を忌む気持ちは少しも感じませんでした。私もそうです」
「俺としてはあの人に奥方がいる方が驚きだな」
「光秀どのでも驚くことがあるんですね」
話が一区切りついたところで、華音の目元に睫毛の影が映った。