第16章 姫さんと狐の噂
使者と話していたのを見られたのは不覚だった。
花音は口が堅いから、事情を説明すれば最後まで誰にも話さないだろう。
しかしそれは、花音を巻き込むのと同義だ。
だから何も伝えないつもりでいた。
形ばかりの脅しをして、今回のことは見なかったことにさせようとした。
だが、
「貴方はどうして……!!」
花音の目は、あの時と一緒だった。
光秀が銃を持って戦っている時の心内を知った時の、花音の目。
前と少しだけ違うのは、張り詰めていたものが溢れたように花音の目から一筋の光が流れたこと。
花音が泣いていることは見たことも聞いたこともなかった。
何度も危ない目に遭ったことはあるのに、ただの一度も泣かなかった。
花音自身、久しく泣いたことはなかったのだろう。
泣いていることには気づいていない様子だった。
膜が張る黒曜石の目から感じるのは悔しさともどかしさ。
光秀は慰めるように指で涙を拭おうとしたが、振り払われた。
「っさわるな莫迦!!」
光秀は、初めて花音の名を呼んだ。
花音は、初めて他人の前で泣いた。