第5章 群青の飛球 *不死川玄弥*
そのまま三振を取ってやっとワンアウト。
次のバッターは童磨だ。ボックスに立つとニヤリと不適な笑みを浮かべる。
(また舐めたことするつもりか…?そんなことさせるかよっ!)
そこから童磨との一騎打ちが始まった。
気付けばフルカウント…大きく振りかぶって、これで最後だ!と腕を振るう。
すると狙ったかのように鋭いライナーが俺の頭上目掛けて飛んでくる。
(高いっ!くっそ…!!)
マウンドを蹴りあげてミットを伸ばす……
パンッ
ミットに収まったボールが乾いた音を立てた。
入った!!と喜びも束の間……
「バックホームッッ!!」
宇髄さんの声にはっとすると、三塁にいたはずのランナーがホームベース目掛け走っていた。
体勢を直してる余裕はなくて、そのまま宇髄さんへと投げた。
舞った土埃が霧のように晴れていくと……
宇髄さんのミットはランナーが伸ばした手に触れていた。ホームベースより数センチ離れた場所で…
「アウト!!!」
「「っしゃぁ!!!」」
「「わぁぁ!!!」」
再び歓喜が上がって、俺達も雄叫びを上げた。
次が俺達の最後の攻撃だ。ここで逆転をしなければ、俺達の夏は終わる…
回が入れ替わりツーアウトを迎えた。
それでもさっきのファインプレーで勢いがついた俺達に、勝利の兆しが見えた。
兄貴がヒットを打って出塁すると、続く伊黒さんも塁に出た。次は俺の番…ユニホームの下にあるからもらった御守りを握り締め、気持ちを落ち着かせてると宇髄さんが声をかけてくれた。
「玄弥、皆でお前に回したぞ。一発かましてやれ!」
そう背中を叩かれ、バッターボックスに立つと少し緊張してきた。
場内が静まり返ると、その瞬間スタンドからの声が聞こえた。
「玄弥ー!!ぶちかませーー!!!」
あいつらしい女子らしからぬ声援に、力んでいた肩の力がふっと抜けて背中を押された気がした。
不適な笑みを浮かべる童磨が大きく振りかぶって投球する。
向かってきたボールを見極め、ぎゅっとグリップを強く握り締めると今までの思いを込めて渾身の力でフルスイングした。
群青色の空を高く打ち上がった飛球は、大きなアーチを描いてフェンスを超えていった。