第4章 出来心 *宇髄天元/R18*
春の足音が感じられるようになる頃、は多忙な時期を向かえていた。
【出来心】
プルルル、プルッ
3コール以内には受話器を取る。
それが会社での暗黙のルールだった。
「はい、高谷不動産です」
鼻にかかるような声で受話器を取れば、また新たな内見であろう客からの声が聞こえてくる。
は不動産で働いている。
この時期になると人事異動や新生活の為、内見の客が殺到する。
所謂、多忙な時期に入っていた。
最後の客を店から見送ったが時計を見ると時刻は20:00を回った頃。「今日は早めに終わった方だな」と呟くとふぅーと短めな溜め息を吐き、顧客の資料を整理すべくパソコンへ向かった。
今日分を打ち込み終わる頃、突然の携帯が震え始めた。
《不死川実弥》
画面に映し出された名前に、はて?と首を傾げながら通話ボタンを押し耳に当てる。
「もしもし、どうしたの?実弥くんが電話なんて珍しいね?」
『おー…悪ぃんだけど、こいつ迎え来れるかァ?』
「え?…天元と一緒なの?」
『久しぶりに飲みに行くぞって誘われたんだけどよ、言い出しっぺが早々に潰れやがって困ってんだ…まだ仕事中かァ?』
電話の主は不死川実弥。
の彼氏である宇髄天元とは同じ会社で働く後輩である。だが、先輩後輩を感じさせない程仲がいいようで、友達のような感覚で付き合いをしていた。
も何回も会っていて、よくご飯に行ったりする仲だ。
そんな不死川に「もう終わったから行けるよ!どこ?」と場所を確認すると、パソコンの電源を切り店を後にした。