第9章 生命と選択
美穂子は正直、迷った。
彼の立場や状況を考えれば、言うべきじゃない。
けれど、言わなくともいつかバレてしまう。
同じ家に住んでいるし、時に身体を重ねることだってあるというのに…それでバレないわけがないのだ。
「藍野さん」
「は、はい」
卯の花に話しかけられて、美穂子は顔を上げた。
「死神にとって妊娠は奇跡に近いのです」
「え?」
「人間のときのように、女性にある程度平等に妊娠の機会が与えられているわけではないのです。特に貴族以外の死神にとっては。もちろん、可能性は0ではありませんが」
卯の花は小さく微笑む。
その微笑が―…とても切なげで、美穂子は心が痛む。
「―…卯の花隊長」
「はい」
「私―…降ろそうとか、そういうことは…考えていないんです」
「はい」
「ただ…私は、死神ではありませんし…ましてや、ただの魂魄でもない身です。子の父親は―…とても身分の高い方ですし…」
美穂子はぎゅっと手を強く握った。
「あ、あの!」
美穂子は意を決して顔を上げた。
「もし…もしも、私が一人で…「藍野さん」」
美穂子の言葉をさえぎるように、卯の花は美穂子の名前を呼んで肩をたたいた。
「あなたのお相手は、そんなことを強いる人ですか?」
「いいえ!いいえ、そんなことは!でも…っ、だからこそ…っ」
「先ほども申したとおり、妊娠の機会は非常に少ないのが尸魂界での常識。それを踏まえて、お相手と一緒に考えなさい。藍野さん、決して。決して自分だけで結論を出してはダメです。いいですね?」
「―…はい」
卯の花の言葉に、美穂子はそっと視線を落とした。