第9章 生命と選択
卯ノ花のところにも、美穂子が白哉と交際関係にあることは伝わっていた。
二人が仲良さげに歩いているところも何度も目撃している。
けれど、彼女の様子を見る限り―…夫婦に、という話はないのだろう。
それもそうか、と卯ノ花は思う。
相手は四大貴族の当主で、過去に流魂街から嫁を取ったこともあって次の結婚は相当難癖がつくはずだ。
白哉の性格を考えれば、素直に言えば美穂子を娶ると言いだすだろう。
(この人は―…とても優しい方なのね)
卯ノ花は小さく微笑んだ。
自分の幸せよりも、相手を心配している。
きっと―…彼女にとって白哉と言う存在はとても大きいのだろう。
「藍野さん、大丈夫ですか?」
卯ノ花が声をかけると、美穂子はビクッと肩を震わせて顔をあげた。
顔色が悪い。
「だ、大丈夫です」
「―……妊娠初期なので、あまり薬に頼るのはよくありませんが精神安定は大切です」
これを、といくつかの薬を卯ノ花は美穂子に差し出した。
「あの…これは?」
「漢方という、植物由来のお薬です。即効性はありませんが、継続すれば効果が出ます」
「―…ありがとうございます」
美穂子は差し出された袋を受け取ると、眉をひそめた。
(どうしよう…白哉に、伝えられる…?)