第4章 番外編
その池の中を何かかゆっくり泳いでいる
手を伸ばし池に触れると、波紋が広がった
《久しいな、我を覚えているか?》
声に、聞き覚えあった
小さかった頃、祖母の家の池でよく聞いた声だった
《ようやく、お前の側にいてやれるのだな》
(側にって、貴方は誰なの?)
その瞬間水飛沫が上がり、目の前に現れたのは
淡い光を放ち、透き通る程の綺麗な鱗に翡翠色の瞳を持つ龍だった
《我はお前達翠蓮家の守護として、代々式神として力を貸していた
お前は幼い頃から我が視えていたな》
そう言われ、記憶を手繰り寄せる
よく池の近くにいては何かと遊んでいた
それを祖母は見て、何故か驚いた表情をしていた
それからだ
母が祖母とよく言い合ってたのは
小さかったあたしは何を言ってるかよく分からなくて、池の近くで泣いてた
その度に優しい声色で宥められていた気がする
《思い出したか?…我はずっとお前がここに来るのを待っておったのだ、お前が主として来るのをな》
(主…?)
《お前が我と契約を結ぶ、さすれば我の力はお前のものだ。そして、また花咲くのだ》
そのまま光があやめを優しく包む
《忘れるな…側には“我ら”がいつも………》
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あ「待って!!」
ハッと目を開けると、広い部屋で五条先生がいた
五「何か見えた?」
あ「え……あ、はい、綺麗な龍に…あたしが主にって…」
しかし、言葉で交わしただけで肝心の召喚も分からなければ契約もしていない
五「龍ねぇ、こりゃまたデカイもんに会ったね。最初にしては出だしいいんじゃない?これから毎日修行になるね」
そう言われて、気を引き締めるあやめだが最後に聞こえた“我らが”に少し違和感を覚えていた
その日の夜
シャワーを浴びていたあやめは、左胸上に薄いアザが出来ているのに気づいた
あ(こんなとこぶつけたかな…アレ、でもなんとなくこのカタチ…)
あ「蓮の花みたい……」
そっとそのアザをなぞってみると、薄かったアザが7枚の花弁が広がっている蓮のカタチにくっきりと浮かび上がった
すると、どくんと身体の奥から何かが呼んでる感覚になった
息が上がる
鼓動が早い
耳鳴りがする
そして、口が勝手に動いた
あ「黒、姫……。朔、尾……」
アザの花弁が2枚消えた