第7章 7
「僕はね、山の方の生まれでして。高校の夏休みに、友達に釣りに誘われてこの町に来まして、それで初めて漁火を見たんです」
やっと語れる相手を見つけたといった感じで、男性は興奮混じりに語り続けた。
「だいぶん感動しましたよ。それまでの人生で見た中で1番美しい光景だった。忘れられなくてね。それから何度もここを訪れています。卒業旅行、新婚旅行、ひとり旅でも来ますけれど」
「新婚旅行でこんな所ですか!?」
有羽は思わず大きな声を出した。が、すぐに失礼だったかと気づいた。
「いえ、済みません。あの、私いつも考えなしに話しちゃうんです」
「はは、いいですよ。誰に話してもそんな反応です」
男性はほがらかに笑った。
「僕の妻はそれでいいって言ってくれましたよ。そういう人だから結婚出来たとも言える」
「はあ、素敵ですね 」
やや気まずそうにモゴモゴと答える。男性はまた、ハハと笑った。
「不思議ですね。どうしてこの明かりにこんなに心惹かれてしまうんでしょうね。でも嬉しいんですよ。この光がいつも変わらず残っていてくれて。いつ来ても同じ光がそこにいてくれる。それがどうしようもなく安心するんです」
「そうですか。いいですね。私にとっては、あまり面白みのない光景なんですけど」
「地元の人からしたらそうかもしれませんね」
有羽は愛想笑いを浮かべながら砂を蹴った。いつまでこの話は続くのだろう。もう帰りたかった。