第7章 7
「イカって、光が苦手らしいですね」
男性はなおも言葉を続けた。有羽は「え?」と顔を上げた。
「イカ自身は光が嫌いだそうで。でも光のある所には、イカのエサである小さな生き物が群がる。だからイカも光の元へ行かざるをえない。いや、地元の方には釈迦に説法かな。でも、切ない話ですよね。食べるために、自分のために光へ走ったはずなのに、自分の方が食べられてしまうなんて。それでも行かざるをえないんでしょうね」
ザン、と波が打ち寄せた音がした。ひときわ大きな音だった。
有羽は波の向こうを見つめた。闇をはらって輝く漁火。眩しい漁火。無数のイカがそこに集まるのだろう。食べるために、死ぬために。