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わたしは漁火

第4章 4



「電車疲れなかった?お腹空いてる?何か食べようか。この間、新しいお店入ったみたいだよ」
「あっ、神戸のケーキ屋でしょ!ヤダそれ行ってみたかったの!」

大きな都市の大きな駅ビルはテナントの入れ替わりも激しい。有羽が年に数度この街を訪れる度に、魅惑的な店が新たに顔を出す。
「いつも駅ビルじゃなくて、たまには郊外のお店でもいいんだけどね。車なら僕出すよ」と良正は言うが、有羽はこの駅ビルが好きだった。
きらびやかで、広く、高く、ここが中心なんだぞと言わんばかりのあり様。有羽にとってそこはいつも新鮮であった。
大きな吹き抜けに輝く照明。思えば、それが有羽にとっての漁火だったのかもしれない。

だからその晩、街を見下ろせるフレンチレストランで良正が放った
「この街で暮らさない?」
という言葉は、愛の告白にしては遠回しだったが、有羽の胸を大きく揺り動かすことはできた。
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