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わたしは漁火

第4章 4



「僕、その…今度、ちょっと昇進するんだよね…」

良正は、優しく温和な人柄だった。それゆえに漁師町の荒々しさになじめなかったと言ってもいい。

「有羽もさ、この街なら、仕事いくらでもあるし…。住むところも、その…よければ、僕の…」

良正は、今まで一度も有羽に「好きだ」と言ったことはない。それでも、何度も街に呼び出しては2人で遊びに行こうという意味くらい、有羽にだってわかっていた。

「ゆっくり、考えてくれていいんだけどさ…」

そう言って良正はうつむいた。一方有羽は顔を上げて、店内を見渡した。

きめ細かな模様の壁紙、輝くシャンデリア、たっぷりとドレープの入ったカーテン、ふかふかの絨毯が敷き詰められた床。しっとりとしたテーブルクロス。なめらかな生花のいけられた花瓶。
美しい光景だった。有羽が求めていた「ロマン」が、ここにはある気がした。
S市は近隣では1番の大都市であり、有羽にとってはここが世界の中心だったのだ。
有羽は小さく呟いた。

「そうだね…。いいかも」

窓の向こうに夜景が見えた。夜の闇にくっきりと浮かぶ街の灯が、左右いっぱいに輝いていた。
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