第27章 peace of mind 赤葦
ガコンッ
ブラックコーヒーを買ったつもりが、出てきたのはミルクたっぷりカフェオレ
俺どんだけ疲れてんだ
これでは眠気は覚めないし…
と思いながらカフェオレを手に持ったまま、自販機の前に突っ立ってると
「赤葦さん?どうかしましたか?」
背後から声をかけられた
振り返るとそこには橘さんが立っていた
今までは社内で顔を合わせたこともなかったのに、今日はこれで2度目
いや、もしかしたら顔を知らなかっただけで、今までもすれ違ったことぐらいはあったかもしれない
「いや…その…ブラックコーヒーを買おうとしたら、間違ってこれを買ってしまって」
そう言ってカフェオレのラベルを彼女に見せると、彼女は
「だいぶお疲れのようですね」
と言いながら、自販機に小銭を入れてブラックコーヒーのボタンを押した
彼女もやはり、こんな時間まで仕事しているのだから眠気覚ましにコーヒーを買いにきたのだろう
そう思っていると
「はいどうぞ」
と目の前にブラックコーヒーが差し出された
「え、いや…それは橘さんの」
「いいんです、私はいつもカフェオレですから」
「本当ですか?」
「はい、この時間になると糖分補給しないと頭が回んなくて…それに、私お恥ずかしながらブラックコーヒー飲めないんです」
そう言うと彼女はペロッと舌を出しておどけてみせた
ドキッ
明らかに心の中に何か新しい感情が芽生えた
声しか聞いたことのなかった、仕事が出来る経理部の先輩
初めて見た彼女は小柄で可愛らしく、優しい人だった
そして案外お茶目な部分もある
橘さんは、俺の手からカフェオレを受け取り、来た道を戻ろうとする
ここで…ここで何か…
「あのっ」
自分でも存外、大きな声が出てしまい困惑した
「どうしました?」
「少し…時間大丈夫でしたら、休憩していきませんか?」
そう言って自販機の近くにあるカフェスペース(と言っても、椅子とテーブルが置いてあるだけ)に視線をやる
「大丈夫ですよ、ちょうど一区切りついたところなので」
俺たちは机を挟んで向かい合う格好で腰をかけた