第27章 peace of mind 赤葦
「赤葦〜経理部の橘さんがお前のこと呼んでるぞ」
「あ、はい」
返事をしてから立ち上がり、経理部の先輩のところへ行くまでに5秒
何か思い当たることはないか思い出す
経理…あ、もしかしてあれか
「あかあ…
「申し訳ございません、経費報告忘れておりました。今から早急に行います!」
「あ…覚えててくれたらいいんです。何度か社内メールを送りましたが、まだでしたので」
今月は宇内先生の連載が打ち切りになると決まり、次の連載の打ち合わせや取材などで目の回るような忙しさで、経費報告を忘れていた
「すみません、すぐにやります!もしかして…橘さんはこうやって報告出来てない全社員の元を回られてるんですか?」
「いえ、赤葦さんはいつもキッチリしてるので、珍しいなと思って。何かトラブルや困りごとがあるのかと気になって来ただけです、それじゃあよろしくお願いしますね」
そう言うと橘先輩は、編集部の他の社員に一礼をして颯爽と去って行った
橘先輩
名前だけは知っていた
入社間もない時、通勤費の申請などでお世話になったけど、いつも電話越しだったから、姿を見たのは初めてだった
いつも的確で、仕事が早いと有名な彼女はもっとクールな人かと思っていたけど、案外小柄で柔らかい雰囲気の人
フロアを去って行く彼女の背中を見つめながら、そんなことを思った
俺はそれから大急ぎで経費報告を済ませ、自分の仕事に取り掛かる
今日は宇内先生から預かった原稿の校正作業で、徹夜コースかな
先月、宇内先生と俺はアドラーズVSジャッカルズの試合を観るために仙台に行った
両チームの戦いを見て先生は、バレー漫画を描くと決め、2人であちこち取材に奔走して打ち合わせを重ねた
次作品は絶対に打ち切りになんてさせない
魅力的な作品にするための企画書を考えるのと、打ち切りが決まっている前作の校正と…
はぁ…
本当体がいくつあっても足りないな
俺は眠い目を擦りながら、カフェインで脳を覚醒させるために自販機へと向かった