第24章 sprout 佐久早
「橘さん…」
気づくと俺は食堂に足を踏み入れ、彼女に声をかけていた
「あ、佐久早さんこんばんは。今日も遅くまでお疲れ様です」
「そちらこそ…なんか…しばらく見ませんでしたね」
俺がそう言うと、彼女はホーローの白い鍋を持って厨房から出てきた
「これを仕込んでたんです。梅びしお…梅のジャムみたいなものなんですけど、塩気を抜くために2、3日水に浸けておかないといけなくて」
甘い匂いの正体はこれか、と思いながら鍋を覗く
「食べてみますか?スプーン取ってきますね」
そう言って厨房に戻る彼女の背中を見ながら、何とも言えない気持ちになった
俺のために、こんなに手間をかけて遅くまで試作してくれてるのだと思うと愛しさが込み上げてきた
それに久しぶりに会って確信した
俺は橘さんが好きなんだと…
スプーンを持って戻ってきた彼女が、鍋の中から梅びしおを掬う
「プレーンヨーグルトなんかに入れるとバランス良くていいと思いますよ」
そう言ってスプーンを手渡される
「どうぞ」
スプーンを受け取り、口に運ぶと酸味と甘みが調和した美味しさが口の中に拡がった…でもそれよりも
「どうですか?」
と微笑む彼女がたまらなくて、思わず抱き寄せて口付けた
舌を絡ませて、味わうように貪ってゆっくりと唇を離す
「…美味しい」
そう言うと彼女は顔を真っ赤にする
「佐久早さん…」
「橘さん…会いたかったです」
「私もです」
「え、そうなんですか?」
腕の中にいる彼女に訊ねると、彼女はコクリと頷いた
「…俺の部屋に来ますか?」
「…はい」
独身の男性寮ということもあり、俺たちは人目につかないように部屋までの道を進んだ
そして今、俺の部屋の中に橘さんがいる
俺がこの部屋に他人を入れたのは初めてだった
それに…
「あの…佐久早さん、先にシャワーを…」
「無理、待てない」
シャワーを浴びていない女を抱きたいと思ったのも初めてだった
俺はその場にジャージを脱ぎ捨て上半身裸になると、彼女をベッドに組み敷く
ギシッ
もう一度確かめ合うように口付けて、段々とお互いの呼吸が荒くなっていく
ハァハァハァハァ